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公募研究項目A04:こころの時間の「病理・病態」
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時間認識における「基本単位」 -認知心理・神経生理・臨床的手法による総合的研究-
- 研究代表者
- 寺尾 安生東京大学 医学部附属病院 講師
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- 連携研究者
- 湯本 真人東京大学医学部付属病院 臨床検査部 講師
- 連携研究者
- 古林 俊晃東北文化学園大学 医療福祉学部 教授
- 連携研究者
- 花島 律子北里大学医学部付属病院 神経内科 准教授
ヒトの時間情報処理に関して、処理される時間の長さにより、例えば1秒以上と1秒以下の時間について異なる脳内処理が行われている可能性が指摘されてきた。これはどの程度の長さの時間が"一塊り"の知覚としてとらえられるかという限界(時間的統合の限界)、即ち"時点"ともいえる時間認知の基本単位があるかという問題にも通じる。しかしヒトが"時点"、特に現在の"時点"をどのように認識しているかは知られていない。本研究ではヒトで1)ある長さ以上と以下の時間で情報処理機構が異なるような時間の長さの境界があるか、2)"一塊り"の知覚としてとらえられる時間の"基本単位"があるか、3)これに関わる神経構造は何か、4)それらの神経構造の機能が疾患、年齢、トレーニングなどでどう変化するかを調べる。また神経機能画像、脳磁図・脳波、非侵襲的脳刺激法などの神経生理学的手法により”時点”の認識という時間認識の脳内処理機構に迫る。
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時間見当識と記憶の相互作用機構からみた作話症状の脳内機序の解明
- 研究代表者
- 月浦 崇京都大学 大学院人間・環境学研究科 准教授
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- 連携研究者
- 村井 俊哉京都大学 大学院医学研究科 教授
- 連携研究者
- 上田 敬太京都大学 大学院医学研究科 助教
「作話」とは,器質的な健忘症状に関連して起きる,実際には体験していないことを,あたかも体験したかのように話す現象であると定義されており,保存されている記憶情報に関連する時間的情報を処理することの失敗が原因の一つであると考えられている.しかし,作話症状がどのような認知機能の複合的障害の結果として生起しており,どのような脳内機構の障害が関連しているのかについては,未だに十分に解明されていない.本研究では,「時間知覚」や「長期記憶」などの複数の心理過程に着目し,これらの過程の相互作用が作話症状とどのように関連し,その関連性がどのような脳内機構を基盤としているのかについて,脳損傷患者を対象とした神経心理学的研究法と,健常者を対象とした機能的磁気共鳴画像(fMRI)法の2つの異なったアプローチから解明することをめざす.
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強迫性障害における主観的時間とその生物学的基盤
- 研究代表者
- 酒井 雄希京都府立医科大学 医学研究科 特任講師
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- 連携研究者
- 川脇(田中) 沙織株式会社国際電気通信基礎技術研究所 脳情報通信総合研究所 数理知能研究室 研究室長
- 連携研究者
- 成本 迅京都府立医科大学医学研究科 教授
- 連携研究者
- 中前 貴京都府立医科大学医学研究科 助教
精神疾患における主観的時間の変容とその重要性は古くから知られ、その心理・行動特性を端的に表すものとされてきた。しかし、その科学的検討はこれまでほとんど行われていない。我々は、「不安」には、現在とは時間的に隔たった未来や過去への拘泥であるという点で本質的に主観的時間が関わっていると考え、それに駆動された顕著な心理・行動異常が特徴である強迫性障害に注目し研究を行ってきた。その中で、強化学習モデルに基づく疾患の数理モデルを構築し、その時間パラメータの変容で強迫症状が説明でき、更に線条体・前頭皮質といった脳領域や神経伝達物質の異常がこれに関わる可能性を示してきた。しかし、こういった意思決定における時間パラメータと主観的時間の関係に関してはこれまで未検討であった。この関係性を行動・脳レベルで解明し、強迫性障害理解を促進し、更には精神疾患における主観的時間変容の解明へ貢献することを目的とする。
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精神疾患と自律神経疾患からみた「心の未来性」に関する認知神経機構の統合的解明
- 研究代表者
- 梅田 聡慶應義塾大学 文学部 教授
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- 連携研究者
- 三村 將慶應義塾大学医学部 教授
- 連携研究者
- 朝比奈 正人医療法人同和会神経研究所 医師
- 連携研究者
- 寺澤 悠理慶應義塾大学文学部 助教
- 連携研究者
- 黒崎 芳子北海道医療大学リハビリテーション科学部 助教
未来に向けられた認知機能をプロスペクション(prospection) と呼び,展望記憶,自動的な未来思考,感情予測などの心的機能が含まれる.プロスペクションは多分に無意識的な成分を含んでいるため,これらの背後にあるメカニズムを解明するためには,行動反応や脳活動を計測するだけでは不十分であり,自律神経を介した身体反応の測定が必要不可欠である.そこで本研究では,「心・脳・身体」という三者関係のダイナミクスを重要視し,自律神経活動とそれに伴う身体状態の変化の感覚である内受容感覚 (interoception) に焦点を当て,不安障害やうつ病などの未来思考が関わる精神疾患のメカニズム解明および,自律神経疾患における身体機能低下と未来思考との関連性の解明に集中して取り組む.
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主観的現在に関する時間障害の神経心理学的検討
- 研究代表者
- 緑川 晶中央大学 文学部 教授
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脳損傷患者の中には、時間の流れを実際より速く感じたり、逆に遅く感じたりすることがある。また、時間感覚の変化は数秒単位の短時間で生じることもあれば、数分から数時間あるいは年単位で生じることもある。本研究では、脳損傷患者を対象にそのような主観的な現在の感覚をミクロとマクロの双方のレベルで包括的に検討し、主観的な現在の神経基盤を明らかにすることを究極的な目的とする。この研究を遂行するために、ミクロなレベルでの主観的な現在に関しては、①知覚的時刻、②心的持続時間、③心的クロックの研究から着手し、実験心理学的な手法を応用して主観的な現在の研究を進め、マクロなレベルでの主観的な現在に関しては、④時間認識や⑤年齢認識の点から研究を進めてゆく。
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自閉症者の触覚過敏と触覚に関する時間分解能向上との関連性の検討
- 研究代表者
- 井手 正和国立障害者リハビリテーションセンター研究所 脳機能系障害研究部 発達障害研究室 学振特別研究員PD
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- 連携研究者
- 和田 真国立障害者リハビリテーションセンター研究所 脳機能系障害研究部 発達障害研究室 室長
近年、自閉症の診断では、感覚過敏・鈍麻が重要な特徴だと見做されるようになった。先行研究によると、自閉症者は小さな振動でさえ検出ができ、これが触覚過敏の基盤であると報告されているが、こうした触覚の検出感度上昇と感覚過敏との関係は明らかではない。一方、自閉症者は、単一モダリティの刺激に対して、時に高い時間分解能を示す。このことから、 “過度な時間分解能の向上”も触覚過敏を引き起こす可能性があるのではないかと考えた。すなわち、一定の時間範囲内に与えられた刺激を過剰に細かな時間単位に分割して処理することで、異なる単位で処理された刺激の処理が加算され、結果的に強い感覚印象が生じると想定した。本研究では、個々人の触覚の時間分解能・検出感度と日常生活における感覚過敏の程度との関係を検討する。この研究で、感覚過敏・鈍麻が刺激処理の時間的側面に関係した“こころの時間”に関する特徴だということを明らかにする。
公募研究項目B01:言語学・哲学から見た「こころの時間」
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時間がリズムに変わる瞬間の脳内反応を捉える:言語知覚との共通基盤
- 研究代表者
- 黒田 剛士静岡大学 情報学部 特任助教
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- 連携研究者
- 宮崎 真静岡大学 情報学部 教授
- 連携研究者
- 門田 宏高知工科大学総合研究所 准教授
- 連携研究者
- 小野 史典山口大学教育学部 講師
二つの音によって区切られる単一の時間間隔に対する知覚内容は「長い/短い」,「何秒程度」といった測量的なものに限られる。しかし,音が繰り返され,複数の時間間隔が連なると,「均等なリズム」や「不安定なリズム」といった事象の性状を述べるリズムの知覚に変わる。時間間隔が繰り返されるどこかの瞬間で,リズムの知覚をもたらす脳内反応が生じるはずである。本研究では,等間隔リズムの形成により時間弁別の精度が向上するMultiple look effectという現象を利用して,脳内のどこで,いつ,時間がリズムに変わるのかを明らかにする。そして,これにより導出された脳内反応が,言語を知覚する際にも直接的に働く可能性を検証するために,非言語音だけでなく言語音を用いた実験を行う。これにより,当該の新学術領域「こころの時間学」が目指す脳内の時間地図の作成に対して,リズム知覚の領域,およびその時間知覚と言語知覚との関係性を図示することを目指す。
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時間分岐表象における倫理的・心理的価値付与の分析
- 研究代表者
- 青山 拓央京都大学 人間・環境学研究科 准教授
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- 連携研究者
- 宮崎 真静岡大学 情報学部 教授
- 連携研究者
- 寺尾 将彦山口大学 時間学研究所 助教
未来の可能的な歴史は複数存在しているが、過去の可能的な歴史は一通りしか存在しない、とわれわれ人間はふだん考えている。言い換えるなら、可能性の樹形図――過去から未来へと枝が分岐していく樹形図――によって時間を表象することに、われわれは慣れている。本研究の目的は、こうした時間表象と、日常生活におけるさまざまな価値判断との関係を明らかにすることである。「価値判断」としてここで念頭に置いている「価値」は、第一に、責任・懲罰に関わる倫理的な価値を意味しており、第二に、日常生活を多様に彩る心理的な価値を意味している。倫理的価値判断と時間樹形図との連動性の研究は、分析哲学において有名なフランクファート型事例の議論とも、密接に関わるものである。
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言語実験によるヒト固有の時間認知の神経科学的考察:基準時刻と心的発話時刻移動
- 研究代表者
- 時本 真吾目白大学 外国語学部 教授
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- 連携研究者
- 宮岡 弥生広島経済大学 経済学部 教授
- 連携研究者
- 時本 楠緒子尚美学園大学 総合政策学部 非常勤講師
本研究は,時間表現を含む日本語文の理解に伴うEEG/MEGを考察することで,ヒト時間認知の神経基盤を考察する。 言語使用から見たヒト時間認知の特徴は,(1) 発話時刻とは異なる時刻に生じる(た)出来事を伝達できること,(2) 発話者があたかも発話時刻とは異なる時刻に身を置いたかのように発話できることである。本研究では(2)の特徴を「心的発話時刻移動 (mental time shift)」と呼ぶ。実験では,過去・現在・未来の出来事を記述する文を呈示し,出来事の生じた時刻を「その日」,「この日」で指示する。「この」は発話者にとって心理的に近,「その」は遠を意味するので,「この/その」の操作で心的発話時刻移動を操作できる。また,EEG/MEGの発生源(推定)を手がかりとして,心的発話時刻移動と心の理論の異同を考察する。
公募研究項目C01:「動物の時間」と「こころの時間」
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過去と未来を想うこころの発生
- 研究代表者
- 藤田 和生京都大学 文学研究科 教授
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- 連携研究者
- 黒島 妃香京都大学 文学研究科 特定研究員
こころの中に過去や未来を描く働きは、ヒトだけが持つ特権なのだろうか。本課題では、この再帰的過程の発生過程を、多様な系統の動物で比較検討することを通じて明らかにする。第1期の課題では、「過去を想うこころ」として、主としてエピソード記憶の偶発的記憶としての側面を中心に検討し、イヌ、ネコ、ウマについては偶発的記憶の意識的想起とその利用が可能なことを明らかにした。今回これをさらに他の種に拡張するとともに、「いつ」「何が」「どこで」という統合的記憶としての側面を併せ持つ偶発的記憶を検討する。「未来を想うこころ」の検討として、ハトを対象に展望記憶を検討し、予備的には肯定的な結果を得た。今回これを継続するとともに、予測される将来の課題の難易度に応じた準備的な情報希求行動を、手始めにフサオマキザルを対象に分析する。いずれの課題も、手法が確定すれば、ヒト幼児、類人、オウム類を含む他の多様な動物種に拡張する。
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赤ちゃんに「明日」はあるか? 乳児期のメンタル・タイムトラベルの発達研究
- 研究代表者
- 中野 珠実大阪大学 生命機能研究科 准教授
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我々は心の中で自由自在に過去・現在・未来を行き来することができる。このメンタル・タイムトラベルの能力は、どのように発達するのだろうか。メンタル・タイムトラベルには、「いつ・どこで・なに」が起きたかに関するエピソード記憶が必要である。これまで、エピソード記憶に関しては、生後数年してようやく成立すると考えられてきた。しかし、乳児期初期の再認記憶には海馬が関与していることから、エピソード記憶は乳児期から漸進的に発達するが、記憶の再生に用いる言語や行動課題が不適切なため、乳児期のエピソード記憶の発達が低く見積もられてきた可能性が考えられる。そこで、本研究では、霊長類を対象に開発された予測的注視法を、これまでエピソード記憶がないとされてきた2歳未満の乳幼児に適用することで、1)生後いつ頃からエピソード記憶が成立するのか、2)その記憶をどれくらいの期間保持できるのか、さらに、3)その記憶をもとに未来の出来事の予測ができるか、を明らかにしていく。
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齧歯類を用いた時間認知の発達メカニズムに関する比較心理学的検討
- 研究代表者
- 坂田 省吾広島大学 総合科学研究科 教授
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本研究は,ヒトを含めた動物に共通している時間認知を検討する。秒から分単位の時間知覚研究は,時間に関する比較心理学研究において重要なものである。動物におけるオペラント条件づけの時間弁別課題では,間隔二等分課題やピーク法がよく用いられる。インターバルタイミングと呼ばれる短い時間認知は持続時間の知覚や処理能力を調べるものである。齧歯類を用いて数秒から数十秒のインターバルタイミングにおける発達メカニズムの比較心理学的な検討に焦点をあてる。 得られた成果は国内・海外の学会で積極的に発表公表する他,学術誌で特集号を組むことも考えている。海外の学会としては平成28年7月にシドニーで開催される国際比較心理学会において,また日本で開催される神経科学学会と国際心理学会ICP2016において,重要な情報交換の場として時間認知の国際シンポジウムの開催を予定している。
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遅延条件づけから探るこころの時間~異種間比較の枠組構築
- 研究代表者
- 酒井 裕玉川大学 脳科学研究所 教授
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- 連携研究者
- 礒村 宜和玉川大学 脳科学研究所 教授
遅延時間をおいて与える報酬によって行う条件づけは、多種の動物で可能であり、内的な時間の表現や報酬の価値づけとの関係を探り、共通の土台で異種間比較するために有用な方法である。これまで、公募研究の前半で、報酬の価値づけに関わる時間割引の連続・離散時間特性に注目し、動物実験で調べるための枠組を構築し、領域内共同研究を開始している。公募研究の後半では、さらに経過時間を内的にどのように表現しているのかを探るための枠組も構築する。近年、光と音にそれぞれ異なる時間間隔を条件づけした後、光と音の複合刺激を与えると、その中間にあたる時間で反応が起こる現象が見つかった。経過時間は脳内の状態として表現され、それに応じて反応している、と考えると、各々の時間帯で反応が起こるはずで、観測された現象と矛盾する。本研究ではこの矛盾を解消する理論的枠組を構築し、多種間を比較する行動実験課題を構築する。
公募研究項目D01:こころの時間の神経基盤とその応用
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ヒト生活史の背景文脈を構成する匂いが過去の時間解釈を書き換える-その脳基盤の解明
- 研究代表者
- 阿部 十也福島県立医科大学 脳疾患センター 講師
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他の動物と同様、ヒトであっても、その時の背景(雰囲気、時代など)に影響を受けて生きている。研究代表者は、過去のエピソードを思い出す時、その当時の背景が蘇る状況下で、過去の順序関係が書き換えられることを示した。海馬ではタイムスタンプだけがコードされており、嗅内皮質にその情報が上がりイベントと結び付けられ、時間軸を持つエピソードとなる(Naya et al., 2011)。背景が、海馬のタイムスタンプを攪乱するのか、嗅内皮質におけるタイムスタンプとイベントとの結びつきを干渉するのか、どちらが書き換え現象に関係するかを本研究で検証する。さらに、背景-時間の結びつきがイベント-時間の結びつきを凌駕することが書き換えを受け易くさせると考え、前者に関係する神経経路の方が後者よりも強化されることが受けやすさを説明できるか検証する。
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時間を隔てた記憶の連合を司る神経メカニズムの解明
- 研究代表者
- 大原 慎也東北大学 大学院生命科学研究科 助教
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嗅内皮質は海馬と皮質を繋ぐ海馬の入出力インターフェイスであり、記憶の形成において重要な役割を果たしている。この嗅内皮質の表層には、持続的に発火する特性を有するニューロンが分布しており、時間的に離れた2つの出来事を連合して記憶(テンポラルアソシエーション)に関与すると考えられている。我々は近年、外側嗅内皮質の表層(Ⅲa層)において、これまで見落とされてきたニューロン群が分布していることを発見した。これまでの研究でこのⅢa層ニューロンが海馬には投射せず、嗅内皮質全域に強い領域内投射を送ることを明らかにした。我々は、この外側嗅内皮質Ⅲa層ニューロンを中心とした嗅内皮質局所回路が、テンポラルアソシエーションに関わっていると考えている。本研究の目的は、外側嗅内皮質Ⅲa層ニューロンが形成する局所回路の構造を明らかにすると共に、この局所回路のテンポラルアソシエーションにおける役割を解明することである。
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昆虫における時間認識機構の探求
- 研究代表者
- 谷本 拓東北大学 大学院生命科学研究科 教授
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時間の認知は、我々の生活に不可欠な脳機能である。しかし、光や匂いなどの感覚刺激を知覚するシステムと比較すると、脳内の時間認知を司る神経回路には未だ不明な点が多い。 時間条件付けでは、明確な条件刺激(手がかり刺激)は存在せず、無条件刺激(報酬もしくは罰)の提示を一定間隔で繰り返すことで、刺激の時間間隔に合わせた条件反射が形成される。これは、生物が時の計測を学習したことを最も直接的に示す実験系の一つである。 そこで本研究では、遺伝学的手法の応用が可能なショウジョウバエを用いて、時間条件付けを検討し、その神経メカニズムを探索することを目的とする。まず、電気ショックを用いてショウジョウバエにおける時間条件付けを確立する。次に、モノアミン系神経修飾物質の関与を中心として、計時を司る神経回路機構の解明を試みる。
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10秒以上にわたる時間の知覚と生成:後部帯状回遅延カスケードモデルの実証
- 研究代表者
- 岡ノ谷 一夫東京大学 大学院総合文化研究科 教授
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- 連携研究者
- 黒谷 亨理化学研究所 脳科学総合研究センター 研究員
後脳梁膨大部は、視床と海馬から入力を受ける。この浅層には遅延発火性ニューロンがあり、これらのニューロンがカスケード結合を示す。視床からの感覚入力を浅層で受け、任意のカスケードを経て中間層に至るニューロンと、深層から入り情動入力を運ぶ海馬体ニューロンからの側枝が、同時に中間層の出力ニューロンを駆動することで、時間遅れを緩衝する回路が実現できる。これが私たちの実験結果より提唱された遅延カスケードモデルである。 今回提案する研究は、これまで未開拓であった10秒以上の長い時間窓における時間知覚と時間生成との関係を、行動学的・神経生理学的に解明することを目的とする。遅延カスケードモデルでは感覚入力の感覚様相を問わず、時間の緩衝が可能である。本研究により感覚様相非依存の時間緩衝機構が実存し、さらに時間の知覚と生成とが神経機構を一部共有することが示されれば、こころの時間学を大きく前進させることができよう。
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知覚的時空の積分的構造に関する心理物理学的研究
- 研究代表者
- 本吉 勇東京大学 大学院総合文化研究科 准教授
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近年の心理物理学的研究から,視覚刺激の見かけの位置やタイミング,持続時間は刺激に含まれる運動情報に強く依存することがわかっている.これらの知見は,私たちの知覚する時間と空間が運動(速度)信号の積分として再構成されるという考えを支持している.本研究では,視覚系が検出しているのは等速運動というよりはその時間変化である加速度であるという可能性に着目し,加速度の信号から速度の知覚が再構成され,その速度の信号から時間や位置の知覚が再構成されるという二段階の積分的過程を提案する.この仮説を,心理物理学的感度測定,錯覚,自然動画解析,および脳波計測などを通して検証し,人間の脳が,時間的にスパースな加速度の情報からどのようにタイミングや持続時間を判断し,滑らかに連続する知覚世界を体験しているのかを明らかにする.
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過去と現在を結びつけ、未来の行動を制御する神経回路
- 研究代表者
- 野村 洋北海道大学 大学院薬学研究院 講師
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過去の出来事は、現在の出来事に関する記憶形成に影響を与え、それらが結びついて未来の行動は制御される。しかし、それら記憶形成や行動表出を担う神経活動に関する理解は不十分である。本研究では、複数の出来事が連合して記憶が形成され、そして未来の行動が表出される神経回路メカニズムを明らかにする。恐怖条件づけ課題を用いて、実験環境と足元への弱い電気ショックとの関係をマウスに学習させる。特に自由行動下マウスからのin vivoカルシウムイメージング法を用いて、個々の出来事における神経活動とそれぞれの神経活動パターンの関連性を明らかにする。またオプトジェネティクス法を用いてそれら神経活動パターンと行動との関係を調べる。一連の研究を通じて、記憶形成における過去・現在・未来の神経活動のダイナミクスを解明する。
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音の時間分析に必要な内部時間指標の生成機構と地図表現の解明
- 研究代表者
- 伊藤 哲史福井大学 医学部 助教
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- 連携研究者
- 村瀬 一之福井大学 大学院工学研究科 教授
- 連携研究者
- 飛龍 志津子同志社大学 生命医科学部 准教授
- 連携研究者
- 小林 耕太同志社大学 生命医科学部 准教授
言語音のような時々刻々と音程が変化する(周波数変調: FM)音の弁別を行うためには脳内に時間の指標が必要である。コウモリは標的に対し高音から低音へ周波数がさまざまな速さで遷移する掃引FM音を放ち、そのこだまから標的までの正確な距離を測る。こだまの遅延を定量するために中脳の下丘で内部時間指標が作り出されると考えられているが、実際にどのような神経回路によって時間定量が行われているのか解明されていない。コウモリの下丘の低周波数領域には音の立ち上がりからさまざまな時間遅延で応答する細胞があり、このような細胞がこだまの遅延の定量に必要な時間指標を作ることが強く示唆されている。当研究はコウモリやコウモリと局所神経回路構成要素が同じである齧歯類を用い、この神経回路や時間指標の空間的配置を神経解剖学と神経生理学の両面から解明することを目指す。
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「意識された時間」が環境との相互作用に及ぼす影響:探索行動による検討
- 研究代表者
- 齋木 潤京都大学 人間・環境学研究科 教授
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- 連携研究者
- 熊切 俊祐京都大学 人間・環境学研究科 大学院生
「意識された時間」はヒトに固有の機能であり、我々の行動にさまざまな影響を与える。しかし、「速さと正確さのトレードオフ」の分析以外に、体系的な検討は少なく、日常場面に近い状況における「意識された時間」の効果は未解明である。本研究は、採餌課題に着目して、知覚と意思決定が相互作用する複雑な事態における時間意識の影響を検討する。採餌課題は行動生態学から発展し、(1) 実時間で展開する課題であり、日常場面に近い。(2) 理論的最適性が定義され、定量的な評価が可能、(3) 継時的意思決定課題を用いた神経機構に関する多くの知見がある、というメリットを持つ。継時的視覚探索課題、継時的意思決定課題を併用し、「意識された時間」の影響を行動、神経基盤の両面から検討する。これにより、時間知覚、展望記憶など時間意識自体の研究を拡張、発展させ、動物研究との比較検討により「意識された時間」の機能の進化論的な位置を検討する。
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物語における時間認識の身体・神経基盤
- 研究代表者
- 米田 英嗣京都大学 白眉センター 特定准教授
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- 連携研究者
- 小山内 秀和浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 講師
物語を読む際、物語に記述されている時間情報を正しく理解する必要がある。これまでの研究から、物語読解時には記述された時間情報をモニターし、主観的時間感覚に基づいて時間推移を検出していることが示唆された。本研究課題では、物語における時間認識の身体・神経基盤を、認知心理学的実験と脳機能画像法を用いて解明する。 第一に、心的時間旅行を検討するために、物語における時間情報の順行と逆行(1 分後、10 分後、1 日後、1 分前、10 分前、1 日前)を参加者はどのようにモニターしているのかを明らかにする。第二に、時間生成課題を用いて、主観的時間評価を行っている際の神経活動を明らかにする。生成された時間の正確性が、時間経過を含む文の読解時間を予測すると考える。第三に、非定型的な運動および身体知覚を示す発達性協調運動障害を持つ成人を対象とすることで、時間知覚における内受容感覚の役割を検討する。
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時間の有限性の認知・神経基盤の検討
- 研究代表者
- 柳澤 邦昭京都大学 こころの未来研究センター 特定助教
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ヒトは将来起こり得る出来事を想像することができる。この未来展望に関わる認知機能の発達により、ヒトは自分自身の人生が永遠に続くわけではないことを認識している。このヒト特有の認知機能は、将来の計画や行動に対する意思決定に影響を及ぼすことが考えられる。そこで本研究では時間割引(いま獲得出来る報酬と比べて、将来の報酬の主観的価値を低める傾向)に焦点を当て、ヒトの人生には限りがあるという認識の影響を検討する。とりわけ、(1) 機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、時間の有限性の認知・神経基盤を解明し、(2) 時間の有限性が時間割引に及ぼす影響を明らかにする。さらに、(3) 人生の有限感に対する若年者と高齢者の比較検討を行う。
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時間の実験美学:美と魅力の意識化過程と周期的脳波の半球間非対称性の検証
- 研究代表者
- 川畑 秀明慶應義塾大学 文学部 准教授
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近年,感覚情報によって引き起こされる情動の時間特性については様々に検討されてきているが,美や魅力の時間的処理特性に関する研究は非常に少なく,明らかになっていない点が多い。本研究では,心理実験・脳波計測・脳刺激法を用いて,芸術作品や顔刺激画像に対して感じられる美や魅力の認知について,その処理の時間的特性を明らかにする。特に,美や魅力による視覚的意識化の時間特性について明らかにし,さらに美や魅力に関与する周期的脳波の特徴と脳刺激法による変容過程を明らかにすることを目的とする。特に,美と魅力の意識化過程の時間特性を実験心理学的方法に基づいて調べ,さらに美と魅力の基盤として前頭葉の周期的脳波に現れる半球非対称性を明らかにし,さらに脳刺激法により脳の周期変動を変調させることで評価が変わることを検討する。このように,本課題では,実験美学的手法により,刺激に対する美や魅力の評価に関わる時間特性や心の時間についてその特徴を明らかにする
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過去の学習記憶を未来の適応行動に活かす神経機構
- 研究代表者
- 小川 正晃京都大学 医学研究科高次脳科学講座神経生物学 助教
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報酬に基づく古典的条件づけでは、学習前には意味を持たない物理刺激と報酬が、一定の時間的関係で繰り返し提示される。その刺激と報酬の関係を学習すると、刺激が報酬を予測するものであることがわかる。さらに、その結果得られた刺激−報酬間の時間的関係に関する学習記憶情報を、類似状況における適応行動に活かすことができる。従来の研究により刺激—報酬間の時間的関係に応じて神経細胞が発火することは知られているが、その発火活動がこのような適応行動制御に果たす直接的役割は未解明である。本研究は、光遺伝学法などの遺伝学的手法と電気生理学法を用いて、そのような秒単位のタイミング特異的神経活動の役割、およびその神経回路機構について明らかにする。
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セルアセンブリ逐次活動による時間の認知と計測のメカニズムの解明
- 研究代表者
- 藤澤 茂義理化学研究所 脳科学総合研究センター チームリーダー
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近年、海馬において時間情報を表象するニューロン(時間細胞、エピソード細胞)が報告され、注目を集めている。この海馬の時間細胞は、ニューロン群(セルアセンブリ)の逐次活動という形で時間の経過を表現している。しかし、海馬の時間細胞のセルアセンブリの逐次活動が、実際にどのように時間の認知や計測に利用されているのかは未だ明らかにされてない。本研究では、海馬のセルアセンブリの逐次活動が実際にどのように時間を計測するのに利用されているのか、そのメカニズムを明らかにすることを目的とする。
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身体部位間の時間を同期させる神経機構:β脳活動による身体部位間クロック同期仮説
- 研究代表者
- 羽倉 信宏情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター 研究員
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「指で物をつまむ」といった単純な行為であっても、指を動かす複数の筋をタイミング良く活動させられなければ、目的の運動は実行できない。ゆえに正確に身体を制御するためには、脳は各筋や皮膚の動きによって生じる感覚情報を利用して、身体部位が動くタイミングを正確に知る必要がある。しかし、複数身体部位間で感覚タイミングを計時する脳内メカニズムは未だ明らかでない。本申請研究では、定常的な筋出力を行う際に脳の運動関連領野で観察される周期的脳活動に注目する。そしてこの運動実行中の周期的脳活動が身体部位間の「時間軸」をそろえるメカニズムとして働いているという仮説、「β脳活動による身体部位間クロック同期仮説」の解明を目指す。
班友
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行動タイミングを計る大脳皮質-基底核マルチニューロン活動
- 研究代表者
- 礒村 宜和玉川大学 脳科学研究所 教授
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- 連携研究者
- 酒井 裕玉川大学 脳科学研究所 教授
これまで研究代表者と連携研究者は、前肢でレバーを操作するオペラント学習課題にマルチニューロン記録法や傍細胞(ジャクスタセルラー)記録法を組み合わせて、ラットの自発性運動の発現を担う大脳皮質(一次運動野など)と大脳基底核(線条体)の回路機構に関する行動・生理学的研究を推進してきた。しかしながら、大脳皮質や基底核の領域内・領域間回路がどのように運動指令を生成し、行動タイミングを計るのかについては、いまだに大きな謎に包まれている。そこで本研究では、ラットが自発性運動を発現するために自ら行動タイミングを計る大脳皮質と基底核の多領域間回路の情報伝達を、独自の行動・生理学的手法と光遺伝学的手法を駆使して解明し、ヒトや動物の「こころの時間」の神経基盤に迫ることを目指す。
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メンタルタイムトラベルの脳情報基盤の解明
- 研究代表者
- 神谷 之康ATR脳情報研究所 神経情報学研究室 室長
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われわれは「今」「ここ」を離れて、過去の出来事を思い出したり未来のことを考えたりすることができる。このような想起は、「意識の流れ」をかたちづくるものであり、「こころの時間」を構成する重要な要素である。近年、過去と未来の想起を「メンタルタイムトラベル」という共通の枠組み理解しようとする理論が提案されており、脳イメージング研究においても、 過去と未来の想起に共通の神経基盤が存在することが示唆されている。しかし、過去や未来の 想起の「内容」がどのように脳内で表現されているかは未解明である。本課題では、脳情報デコーディング技術を利用して、過去および未来についての想起中の脳活動と現在の知覚や想像に関連する脳活動を比較し、時相間での脳情報表現の共通性と差異を明らかにする。この研究を通して、「現在」に制約され ないヒトの高次認知機能の神経基盤の理解を目指す。
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- 研究代表者
- 西田眞也日本電信電話株式会社 NTT コミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 感覚表現研究グループ 上席特別研究員 グループリーダー
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依存患者における刹那的行動の神経基盤の理解と新規介入法の開発
- 研究代表者
- 高橋 英彦京都大学 医学系研究科 准教授
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依存患者は刹那的であると形容され、質問紙や行動実験でも衝動性や将来の報酬を過度に割引き、目の前の小さな報酬に飛びつく傾向が示されている。このため依存患者ではエピソード的未来思考の障害が想定される。自身のエピソード的未来思考と過去を振り返る自伝的記憶の神経基盤には共通点も多い。このような神経科学的知見や、臨床的にも過去の振り返りも上手くできないことが経験されることより、依存患者で自伝的記憶の障害も存在することが想定される。ギャンブル依存患者のエピソード的未来思考の障害・自伝的記憶の障害と近視眼的行動との関係やその神経基盤を明らかにすることを初年度の目的とする。二年目にはmemory specificity trainingと呼ばれる方法で手掛かりに対する特異的・具体的な自伝的記憶を思い出させる訓練を行い、自伝的記憶の改善を通してギャンブル依存患者のエピソード的未来思考の障害や近視眼的行動の改善を図る介入法を開発することを目的にする。